新潟地方裁判所 昭和44年(行ウ)10号 判決 1970年2月16日
主文
一、本件訴をいずれも却下する。
二、訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告ら
(一) 被告燕市は、原告宮本幸子が燕市教員・同市立燕西小学校教諭であることを、被告入広瀬村は、原告丸山博子が入広瀬村教員・同村立横根小学校教諭であることを、被告大和町は、原告中村加代子が大和町教員・同町立大和中学校教諭であることを、それぞれ確認せよ。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
二、被告ら
主文同旨。
第二、原告らの主張
一、原告らの経歴
(一) 宮本幸子
昭和四〇年三月二〇日新潟大学教育学部卒業、小学校教諭一級普通免許状、中学校教諭二級普通免許状(社会)取得。
昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日まで岩船郡山北村(当時)桑川小学校講師。
昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日まで三条市大島小学校講師。
昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日まで燕市燕西小学校講師。
昭和四三年六月一七日から同年一〇月二六日まで右燕西小学校産休代用講師。
(二) 丸山博子
昭和三七年三月二〇日新潟大学教育学部卒業、小学校教諭一級普通免許状取得。
昭和三七年四月一日から同三八年三月三一日まで燕市燕西小学校講師。
昭和三八年四月一日から同三九年三月三一日まで北魚沼郡入広瀬村横根小学校講師。
昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日まで右横根小学校講師。
昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日まで右横根小学校講師。
昭和四一年九月一日から同年一二月七日まで三条市三条小学校産休代用講師。
昭和四二年一月一二日から同年四月一五日まで燕市燕西小学校産休代用講師。
昭和四二年五月一日から同年一〇月三一日まで燕市燕南小学校内地留学代用講師。
昭和四三年三月一日から同年同月三一日まで燕市大関小学校行方不明代用講師。
昭和四三年四月五日から同年六月九日まで燕市燕幼稚園産休代用職員。
昭和四三年七月六日から同年九月二八日まで燕市燕西小学校産休代用講師。
昭和四三年九月二九日から同年一二月二〇日まで燕市燕幼稚園産休代用職員。
昭和四四年一月一五日から同年四月七日まで右幼稚園産休代用職員。
昭和四四年五月一二日から同年七月三一日まで燕市小池小学校産休代用講師。
昭和四四年九月六日から同年一一月二八日まで燕市小池中学校産休代用助教諭。
(三) 中村加代子
昭和四三年三月二〇日新潟大学教育学部卒業、中学校教諭一級普通免許状(理科)、高等学校教諭二級普通免許状(理科)取得。
昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日まで南魚沼郡大和町中学校講師。
昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日まで右大和町中学校講師。
二、公立小・中学校における講師の概念
公立小・中学校における講師とは、学校教育法施行規則第四八条にのみその根拠を有するものであり、同条項によれば、講師とは「教諭の職務を助ける」ものとされている。これは学校教育法第二八条二項を受け、同法の施行された終戦直後の教員不足を補うため、教諭の免許を有しない教員外の者を講師として待機させ、もつて学校教育活動を円滑にせんとする趣旨に出たものである。したがつて、正規の教諭資格を有する者が多数存在する今日では、右のような講師概念は不用となつたというべきである。原告らはこのような教員不足時代の残存概念である「講師」として処遇せられ、他の教諭と任用期限・賃金・退職金等の勤務条件について理由のない差別を受けている。
三、原告らは講師ではなく教諭である。
原告らは、前記一のようにいずれも新潟県教育委員会によつて各市町村の小・中学校講師として期限付で採用されたが、他の教諭と同一の教員免許状を有し、教員の定員内に算入され、その職務内容は他の教諭と全く同一であるから、前項で述べた講師でなく教諭そのものである。
なお、原告らが教諭としての身分を取得したのは、それぞれ最初に講師として採用されたとき、すなわち、宮本幸子は昭和四〇年四月一日、丸山博子は昭和三七年四月一日、中村加代子は昭和四三年四月一日である。
四、したがつて、原告らは講師として採用されてはいるが、その各任用期間の満了により当然その職を離れるものではなく、現在も教諭としての地位を有するものである。
然るに被告らは原告らがそれぞれ教諭の地位にあることを争うので第一記載のとおりの裁判を求める。
五、被告らの主張に対する反論。
(一) 被告らは、本件の如き地位確認訴訟においては任命権者である新潟県教育委員会のみが被告適格を有するから、これを被告とすべきであると主張しているが、本件訴訟は右教育委員会の原告らに対する採用行為の当否を直接争う抗告訴訟ではなく、原告らが属する被告ら市町村との間における身分関係の確認を求める当事者訴訟であるから、被告ら市町村を被告とすれば足り、新潟県教育委員会を被告とすることは理論的に誤りである。
(二) そして、本訴において原告らの教諭たる地位が被告らとの間に確認されれば、関係各機関は当然にその判決内容にしたがつて原告らを処遇しなければならないから、右各機関が直接被告とされるかどうかとは関係のないことである。
第三、被告らの主張
一、原告らの主張によれば本訴は特別権力関係の存否についての当事者訴訟と思われるところ、このような訴訟において被告としての当事者適格を有するものは、右特別権力関係の成立についての権能を有するもの即ち任命権者であることは当然である。
ところで、原告らは何れも市町村立学校職員給与負担法第一条に云う職員たる身分の確認を求めているところ、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三七条第一項は「市町村立学校職員給与負担法第一条及び第二条に規定する職員の任命権者は都道府県(教育)委員会に属する」と規定し、市町村教育委員会は右法律第三八条第一項によると「都道府県(教育)委員会は市町村(教育)委員会の内申をまつて、県費負担教職員の任免その他の進退を行なうものとする」として、都道府県教育委員会に対する内申権しかないことを明確に規定しているのである。
よつて、本件においてはその任命権者のみが被告適格を有し、また任命権者を被告とすることのみによつて、その目的を達せられると考えられるところ、その任命権者は新潟県教育委員会であり、各市町村を被告とする本件訴は被告を誤つたもので却下を免れない。
二、更に原告は本件訴を各市町村を被告として提起しているが、教育行政を一般行政から独立させると云う趣旨のもとに前記法律第三二条は「学校その他の教育機関のうち、大学は地方公共団体の長が、その他のものは教育委員会が所管する」と規定し、更に第二三条第三号は教育委員会に教育機関の職員の任免その他人事に関することについての権限を与えているのであるから仮りに新潟県教育委員会のみが被告たる適格を有しているのでないとしても、その場合、被告たり得べきものは、市町村でなく、当然市町村教育委員会であることも明らかである。
よつて、市町村を被告とする本件訴については却下を免れない。
理由
一、本件訴訟は、原告らの主張するところによれば、原告らが地方公務員たる公立学校教諭の地位を有することの確認を求める当事者訴訟(行政事件訴訟法第四条後段)である。
右当事者訴訟における確認の利益は、一般の民事訴訟におけるそれと同じく、自己の法律上の権利または地位を争う者との間においてその争いを根本的、最終的に解決する手段として確認判決を得ることが有効適切である場合に認められ、争いある者との間において確認判決を得てもそれが争いの実質的解決に役立たないとか、或いは更に第三者との間において訴訟を必要とするような場合には、いわゆる即時確定の利益を欠くものとして訴の却下を免れない。
二、ところでこれを本件についてみるに、原告らの主張によれば原告らはいずれもいわゆる県費負担教職員としてその任命権者である新潟県教育委員会によつてそれぞれ期限付講師として任命されたものではあるが、それぞれ教諭免許を有し教員定数に算入され被告ら市町村立学校において他の教諭と同一内容の職務に従事しているのだから、その任用期限・賃金・退職金等の勤務条件について他の教諭と差別されているのは不当であるとし、前記期限付講師としての任命が実質的には教諭としての任命であり原告らは右任命によつて教諭としての地位を取得したと主張し、被告ら市町村との間においてそれぞれ教諭としての地位を有することの確認を求めるというのである。
然し、被告ら市町村が原告らの教諭としての地位を争うのは任命権者である県教育委員会が原告らを期限付講師として任命したからであつて、県教育委員会が原告らを教諭として任命したにも拘らず、被告ら市町村がその独自の立場からこれを争い原告らを教諭として扱わないというのではない。
右の事実からすると、仮に原告らと被告ら市町村との間で原告らが主張の如き教諭としての地位を有することを確認してみたところで、任命権者でも費用負担者でもない被告ら市町村が原告らの主張する任用期限・賃金・退職金等について県教育委員会とは異なる独自の待遇を原告らに認めることはできるものではなく、また原告らと被告ら間の確認判決の効力は法律上県教育委員会に及ぶわけではないから(行政事件訴訟法第四一条、第三二条、第三三条)、結局のところ原告らが不当と主張する前記勤務条件に関する差別待遇を解消するためには更に少なくとも県教育委員会との訴訟によらざるを得ないことになる。
してみれば本件訴訟は原告らの主張する事実関係のもとにおいては法律上即時確定の利益を欠くことになり不適法というほかない。
三、よつて、原告らの本件地位確認請求はいずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九三条第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。